ビジネス

2016.05.13 17:00

100億円かけて3年で30社! 東南アジアに新産業を興す日本人


「情熱と誠実さを持ってプロフェッショナルを追求する。事業領域に情熱を持って、寝食を忘れて取り組み、行動が先に立ち、しっかりと分析がかけられる人が“ゼロイチ”を生みやすい。行動から分析をというサイクルで自分を成長させ、マーケットをつくっていける人は、後天的に成長していくので自律的な経営者として育っていくのではないか」

リープラ・グループの経営者は多彩な経歴の持ち主だが、皆、共通してこの条件に当てはまるという。そして、諸藤はそれぞれの経営者とともに(1)「ミッション」、(2)ミッションに時間軸を設けた「ビジョン」、(3)ビジョンを達成するための「戦略」-を徹底的に積み上げていく。特に、ミッションとビジョンについては、多くの時間を割くという。

「事業については、実質的にはかなり本人に権限を渡しています。最低限のガイドやうまくいくために下駄をはかせることはその時々に応じて行います」

現在、諸藤はシンガポール本社から、グループの各経営者と月に最低1度1時間程度打ち合わせをするとともに、東南アジアの各都市を回っている。

「例えば、来週は月曜日と火曜日がミャンマー。木曜日、金曜日がマレーシア、みたいに毎週どこかに行っていますね」

その目的は、東南アジアのスタートアップ・エコシステムを知ること。そして、スタートアップが既存の大企業とどう協調関係にあるのか。今後はコングロマリット企業とも面談をしながら、日本市場とは異なるビジネスの文脈を研究する。

「産業という観点では、各国のコングロマリット企業の変遷を知り、同時にそれら企業の既存ビジネスにシナジーを持てそうなジョイントベンチャーをつくれないか、事業領域とその手法を広く探していく」

今後、リープラ・グループには、あと17社が参画予定だ。諸藤は16年1月、新しいCHRO(最高人事責任者)として、リクルート・グループで東南アジア全域の人材ビジネスの責任者だったジェイソン・ダカレットを招いて、今後は日本人起業家だけではなく、海外の起業家たちを積極的に採用していく。また、「実践」だけでなく、「研究」を担う研究機関の設立のため採用もすでにはじめている。

「僕は50歳までしかやらないと決めている。だから、10年後、リープラとしてインパクトを出せる状態で後継者に渡すというのが僕のビジョンです。それが時価総額20億ドル(約2,200億円)のグローバル展開できるマーケットリーダー企業を複数手掛け、様々な新規事業の種を持っているという状態。その方が次の10年の事業も伸ばしやすいし、研究もしやすいからです。だから、3年30社で各社に300万ドルをコミットし、20億ドル企業群をつくる-はあくまで“参入戦略”で、リープラの“アイデンティティ”ではありません。僕は米デュポンのように社会変容によって企業の姿も事業領域も変容すべきだと思っています。だから、『新しい産業とは何か』。その定義もその時の社会環境に合わせたものであるべき。だから、次世代に任せたいと思っていますね」

なぜ、起業家・諸藤の壮大な挑戦に魅了されるのか-。それは、リープラCFOとして諸藤を間近に見る松田の彼への人物評に答えがある気がする。

「長い時間軸で、かつ、複雑なモノを同時に見る。そして、選択肢が出たら、随時、変化していく。経営の発想や思考が広くて深い。これまでに見たことがない起業家ですね」

RE.A.PRA リープラシンガポールに本社を置き、東南アジアで産業を創造することをミッションに、2014年9月設立。社名は「研究(Research)と実践(Practice)」から。

諸藤周平◎1977年生まれ。九州大学経済学部卒業後、キーエンス、ゴールドクレストを経て、2003年、エス・エム・エス(東証一部上場企業)を設立。14年9月にリープラを創業した。

松田竹生監査法人トーマツ、リーマンブラザーズ証券を経て、2006年エニグモCFO、10年グルーポン・ジャパンCFOを歴任。15年1月にリープラにCFOとして参画。テキサス大学オースチン校経営大学院卒(MBA)
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リープラCEO諸藤周平(右)、同CFO松田竹生(左)
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山本智之 = 文 ブライアン・ファンデル・ビーク = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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