ビジネス

2016.01.13 07:00

バックオフィス業務から脱却! CIOたちの逆襲が始まった

illustration by Andy Martin

いまやIT企業に限らず、あらゆる企業にとって“デジタル化”は避けて通れない課題だ。
その業務改革の旗振り役として、「CIO(最高情報責任者)」の注目度がにわかに高まっている。

「今は、まさにCIO(最高情報責任者)の時代です」
2015年9月末、米サンフランシスコで開かれたゼネラル・エレクトリック(GE)の年次イベントで、CEO(最高経営責任者)のジェフリー・イメルトは気炎をあげた。「企業の生産性を高める最大の原動力、それはCIOです。社内のあらゆる活動の中心に、彼らがいるのです」

CIOといえば長らく、重要だが目立たず、またあまり面白くない役職だと思われてきた。メールやサーバーの管理から、セキュリティ対策、トラブル対応、さらにはパソコンなどの備品調達まで、社内の情報インフラに関する最終責任を負うのが彼らだった。つい3年前には、米調査会社ガートナーが「2017年までにCMO(最高マーケティング責任者)のIT支出額はCIOのそれを上回るだろう」と発表し、世間を驚かせた。CIOの中には、いずれ自分の仕事がなくなると危機感を抱いた者もいたに違いない。さらに、顧客管理クラウド大手セールスフォースの創業者兼会長マーク・ベニオフが「ガートナーの報告書の予測は控えめで、実際は(17年よりも)早く起こるだろう」という見方を示したことも、“CIO没落論”を勢いづけた。ガートナーの予測はおおむね正しい結果となりそうだが、CIOの役割をめぐる認識は改める必要があるかもしれない。

企業向けクラウドサービスを提供するBox(ボックス)のCIO、ポール・チャップマンは「この5年間、上級役員職の中でCIOほどその役割が大きく変わったものはない」と感慨深げに語る。その背景には、テクノロジー環境の急激な変化がある。CIOたちは、社内システムをいかにミスなく安定的に稼働させ続けるかということにもっぱら気をとられていた「守り」の姿勢から、クラウドやモバイル環境に対応した「攻め」の姿勢へと転換が求められているのだ。

変化のすさまじさは、6月、通信大手シスコシステムズの会長、ジョン・チェンバーズが語った次の言葉に集約されていると言っていい。「現存する会社の40%は、10年後には存在していないでしょう。生き残るのはデジタル化に成功する企業だけです」

その生き残りをかけたデジタル化の重責を担うのが、ほかならぬCIOというわけだ。IT専門家集団「アドバイザリー・カウンシル」のプリンシパルとして活躍する業界のベテラン、ジム・ノーブルはこの変化を歓迎する。「今起きているのはデジタルの“負債”を解消できる、一生に一度の大きな変化であり、CIOにとってはチャンスです。AWS(アマゾンウェブサービス)などクラウドへの移行を成功させれば、1年分の設備投資を節約することだってできるのですから」

GEのデジタル改革とは
CIO主導のもとで強力な業務改革を遂行しているのが、巨大製造企業のGEだ。同社は現在、「インダストリアル・インターネット」という標語を掲げ、急激なデジタル化を推進している。10月には、これまで全社的に点在していたIT・ソフトウェア部門を集約する新組織「GEデジタル」を発足させた。イメルトCEOは、「2020年までに業界トップ10に入るソフトウェア会社を目指す」と鼻息が荒い。

たとえば、その取り組みとして、「ブリリアント・ファクトリー」と呼ぶ新たな生産方式を採用した。これは工場内の機器に超小型のセンサーを組み込み、リアルタイムに大量のデータを収集・分析することで、工場ごとに生産体制を最適化するというものだ。

また同社は航空機エンジンや機関車、ガスタービンなどにとりつけたセンサーから、機器の稼働状況、温度、物理的状態などの情報を収集し、「デジタル・ツイン(双子)」と呼ぶシミュレーションモデルを構築している。これによって、個々の機器ごとに最適な修理・交換のタイミングがわかるようになったという。もちろん、こうしたデジタル改革を成功させるのは容易ではない。これまで「守り」の姿勢が強かったCIOたちにも意識改革が求められるからだ。前出のノーブルはこう話す。「私がふだん、現役のCIOたちに話すのは、『これからCIOは勝ち組と負け組に分かれる』ということです。サーバーの運用など、バックオフィス業務をやっているだけの人は負け組です。ルーティンワークを抜け出して、会社に利益をもたらすことのできる人が勝ち組となるのです」

CIOたちが取り組むべき問題の一つに、いわゆる「シャドーIT」がある。スマホやタブレットなどデバイスが多様化し、従業員がそうした私物の端末を無断で業務に使う場面が増えている。こうしたことは従来、セキュリティの観点から好ましくないとされてきた。だがノーブルは「『シャドーIT』を必ずしも悪いことだとは思わない」と話す。「IT部門の人たちは、これまでビジネス部門の人たちから嫌われてきました。それはシステムの監督者として(無許可の端末利用などに対し)『NO』と言わなければならない立場にあったからです。でもこれから、CIOは“監督者”ではなく、“指揮者”にならないといけません。従業員が使うさまざまな端末やシステムをうまく連携させ、一つの心地よい交響曲を奏でる手腕が問われているのです」

それは本来ギークなCIOたちにとって、得意な仕事のはずだ。

「CIO」と「CTO」はどう違う?
一般に、技術面での戦略やビジョンを考え、開発を主導するのがCTO(最高技術責任者)。これに対し、企業活動に必要な情報インフラの策定や運用などに関わるのがCIO(最高情報責任者)だ。日本流に言えば、技術開発部門のトップがCTOで、情報システム部門のトップがCIOと考えればわかりやすいだろう。前者は消費者側の視点から、後者は従業員側の視点から戦略を考える。ただし、両者の区別はしばしば曖昧で、とくに、人員が少ないスタートアップなどではCTOがCIOの職務を兼務することも珍しくない。

文=増谷 康

この記事は 「Forbes JAPAN No.18 2016年1月号(2015/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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